頭蓋骨には、脳の急速な成長に伴って頭蓋が拡張できるための頭蓋骨の継ぎ目である頭蓋縫合があります。
この頭蓋縫合が通常より早く癒合し頭蓋の成長が障害されて頭蓋骨の変形を生じる病気です。
頭蓋骨縫合の早期癒合のみの非症候群性と、頭蓋以外(顔面や手足)の異常を伴う症候群性に
分類されます。
頭蓋の形状により、三角頭蓋・短頭蓋・舟状(長)頭蓋などと呼ばれます。
また、症候群性には、クルーゾン病、アペール症候群、ファイファー症候群などが含まれます。
頭蓋縫合は、2歳までの急激な脳の成長に伴う頭蓋の拡張に重要であるとされています。
頭蓋骨縫合早期癒合症は、1/2000〜2500出生に起こるとされていて、非症候群性を約60%、
症候群性を約40%に認めます。
矢状縫合早期癒合が最も多く、次が前頭縫合早期癒合であり、
人字縫合早期癒合は極めて稀とされています。
クルーゾン病:
症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症のひとつで、頭蓋変形と眼球突出、
上顎骨低形成のため顔面の凹み(中顔面の後退)があり、指・趾、四肢の形成不全は伴いません。
キアリ奇形を合併したり、上顎骨低形成のために咬合不全を生じたりすることがあります。
そのほか、斜視や鉤鼻、下顎(下あご)の突出などを伴います。
家族性に発症する場合は遺伝によりますが、孤発例といって遺伝とは関係ない場合もあります。
発達の遅れはその他の症候群性頭蓋骨縫合早期癒合症に比べると少ないとされますが、
数%から 20%程度に発達遅滞がみられるとされています。
アペール症候群:
同じく、頭蓋変形と合指(趾)症が特徴です。上顎骨の低形成や小さい鼻、
高口蓋や口蓋裂等を合併します。頭蓋内にも脳梁の低形成や透明中隔欠損、脳回異常など合併する病変があり、
運動発達遅滞をきたす場合が多いとされています。また、頸椎癒合や心臓などにも病気を合併することがあります。
症候群性の中でも、重症な病気と考えられています。
ファイファー症候群:
同じく、母指(趾)の変形を特徴とします。3つのタイプに分類され、
タイプによっては種々の先天性病変を合併することがあります。
1 型は頭蓋骨縫合早期癒合と母指(趾)の変形が主体で、
発達遅滞は少ないとされています。
2 型は水頭症を高率に合併し、
非常に強い頭蓋の変形を伴い(クローバー葉頭蓋)予後不良と考えられています。
3 型は2型ほどではないのですが頭蓋顔面の変形が強く、様々な先天性病変を合併し、
予後不良と考えられています。
小児では成長に伴って脳の容積が増大していきますが、この病気では,頭蓋が十分拡張できず、
頭蓋の内腔の圧が上昇し「頭蓋内圧亢進」を生じることがあります。そして、
頭蓋内圧亢進は頭痛や発達への影響を生じるとされています。
新生児や乳児等では、頭蓋変形や頭囲が小さい、大泉門の早期閉鎖などで見つかる場合が多く、
併せて症候群性では顔面、指(手・足)、四肢の異常から気づかれることもあります。
年長児になると、頭蓋内圧亢進に伴う頭痛、視力低下など眼科的な異常、
言葉の遅れや多動症といった精神運動発達遅延などがきっかけになることもあります。
さらに学童期になると学習障害や広汎性発達障害などが症状としてみられる場合があります。
また、合併する可能性のある疾患・症状として、水頭症や脳梁形成不全、けいれん等があり、
顔面骨にも異常が及ぶ場合は眼球突出や上気道狭窄による呼吸障害を伴います。
特徴的な頭蓋の変形や顔貌により、ある程度の診断はできますが、
頭蓋単純撮影や 3D(3次元)CT を実施することで確定診断が可能です。
また、水頭症などの合併症が疑われる場合にはMRI を行います。
最近は、うつぶせ寝が乳児突然死予防のために禁止されたことにより、
位置的頭蓋変形(向き癖)が増えてきており、鑑別が必要です。
治療の目的には、@頭蓋を拡大し、頭蓋内圧の正常化をはかり、
慢性的な頭蓋内圧亢進による脳障害や神経障害を改善・予防すること、
A頭蓋・顔面の形態を改善することがあります。
治療方法は外科的な治療つまり手術が必要です。どこの頭蓋縫合が早期癒合しているのか、
年齢や合併疾患(水頭症など)があるのかなどを考慮し決定します。
手術の時期は、頭蓋内圧亢進のある場合や呼吸障害のある場合などは早期手術を必要とすることがありますが、
そうではない場合は生後 6ヶ月以後まで待機することもあります。
手術の方法は、早期癒合している頭蓋縫合を切除するだけのものから骨延長法を用いた頭蓋形成術まで様々な方法があります。
同一病名であってもお子さんの状況や施設によって選択する方法に違いがあります。
1) | 縫合切除術:生後3ヶ月以内の矢状縫合早期癒合で行われることがあります。 術後にヘルメットを使用する施設もあります。 |
2) | 頭蓋骨形成術:開頭を行って術中に適した形に形成します。 |
3) | 頭蓋骨延長術:骨延長器を用いてゆっくり徐々に延長・形成を行います。 |
4) | Multidirectional Cranial Distraction Osteogenesis(MCDO)法: 頭蓋を被うフレームをかぶせて、ワイヤーにより三次元的に延長を行います。 |
手術により十分な頭蓋容積が確保されて、頭蓋変形の改善が得られれば、
大きな問題なく経過します。
頭蓋の再狭小化:術後しばらく経過した後、再度頭蓋が狭小化(脳の成長に対し容積が不足)して
再手術が必要になることがあります。
神経症状:精神運動発達の障害をきたす場合があります。頭蓋骨縫合早期癒合のために生じるというばかりではなく、
合併する疾患の影響であることも多く、治療開始時期に正確な予測を行うことは困難です。
子宮内や産道を通るときの圧迫あるいは寝ぐせ(片側だけを向いて寝ている)によるもので、
本来は頭蓋骨縫合早期癒合症ではないので病気ではありません。
しかし、乳児期後半まで修正されなかったような「向き癖」はそのまま残ってしまうことがあります。
最近になり、ヘルメットの装着による矯正治療も行われています。
位置的頭蓋変形(いわゆる向き癖)に対して、定頚後の乳児期にヘルメットをかぶせることで、
頭蓋変形の改善をはかります。
医師自身が作成する施設と業者に委託している施設があります。
生後12か月を過ぎると効果は低くなり、18か月以降は禁忌とされています。
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