Pilocytic Astrocytoma
毛様細胞性星細胞腫は少し長い腫瘍の名前ですが、毛のように細い突起を伸ばした星細胞からなる腫瘍です。
毛様細胞性星細胞腫はその約8割が20歳代までに発生し、
世界保健機関(WHO)の分類において、4段階に分けられている悪性度のグレードでは
最も予後が良いグレード1です。
稀ながら神経線維腫症I型に合併する場合もあります。
毛様細胞性星細胞腫 pilocytic astrocytomaは、WHO グレード1 に分類される悪性度の低い神経膠腫 gliomaです。
以前はpilocytic astrocytoma (WHO grade 1)とpilomyxoid astrocytoma (WHO grade 2) に区別されていましたが、
2016年にWHO脳腫瘍分類が改定され、現在はpilocytic astrocytoma (WHO grade 1)にまとめられました。
分子生物学的な解析も盛んに行われており、BRAFとKIAA1549の遺伝子が癒合することが特徴的であり、約70%でみられます。
また神経線維腫症I型に合併する毛様細胞性星細胞腫は3%でみられます。
症状は,視力障害、頭痛、嘔気、嘔吐、ふらつき、運動失調(運動の調整がうまくいかない症状)などがあります。
発生部位は主に小脳、視神経・視交叉、視床下部、脳幹で、小脳に発生すればふらつきやすく、視神経・視交叉に発生すれば
視力障害、視野障害を来します。
この腫瘍により髄液の通過障害を来し水頭症を併発すると、頭痛、嘔吐が急速に進行し、元気がなくなってきます。
症状に関しては、小脳症状、視神経症状や頭蓋内圧亢進症状が一般的ですが、稀ながら視床下部症状で発症することもあります。
また非交通性の急性水頭症を併発することもあります。また悪性度が低いにも関わらず、特にpilomyxoid astrocytomaとされるものでは髄腔内播種を来すこともあります。
診断は、頭部造影MRI検査でおおよそつきます。
腫瘍は水分を多く含み、部分的に強く造影されます。またしばしば嚢胞といった袋を伴います。
治療に関しては、手術を行うことが一般的です。
小脳に発生した場合は、手術で腫瘍を全部摘出したと判断された場合は再発の可能性が低いため、抗がん剤を用いた化学療法
や放射線治療を行わず経過をみるのが一般的です。
一方で視神経・視交叉に発生した場合は、手術により視機能障害(ものが見えなくなったり、みえる範囲が狭くなったり)
を来す場合もあるため腫瘍を全部摘出することは困難です。
腫瘍が残存した場合は化学療法を行うのが一般的です。
低悪性腫瘍ではありますが、残存腫瘍が徐々に増大する場合は化学療法以外に放射線治療や再手術といった追加治療を行うことがあります。
神経線維腫症I型に合併する場合は、進行が緩徐であり、放射線治療の合併症を来すこともあるため、手術や放射線治療は行わず
化学療法のみを行うのが一般的です。
治療に関しては、急性水頭症を併発し意識障害を来した場合は、緊急手術が必要となる場合もあります。
小脳に発生した場合はその多くが外科的摘出のみで治癒が期待できますが、視神経・視交叉、視床下部に発生した場合は、
腫瘍が残存し易いため術後にカルボプラチンやビンクリスチンを用いた化学療法を行うのが一般的です(参考文献:1)。
再発が見られた場合は、放射線治療や再手術を行う場合もあります。また神経線維腫症I型に合併する毛様細胞性星細胞腫は、
非遺伝性毛様細胞性星細胞腫と比べ増大速度が緩徐で自然縮小したとの報告もあり、治療としては手術を行わず化学療法が第一選択となり、
放射線治療は合併症を来し易いため行わないのが一般的です(参考文献:2)。
【参考文献】
予後に関しては、日本脳腫瘍統計(2005-2008)ではpilocytic astrocytomaの5年生存率は97.8%、5年無再発生存は83.8%、
pilomyxoid astrocytomaの5年生存率は83.9%、5年無再発生存は66.7%ですす(参考文献:1)。
【参考文献】
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