髄芽腫は、小児で最も多い脳腫瘍の一つです。
その発生頻度は全脳腫瘍の0.7%、小児脳腫瘍の9.9%であり、
我が国での推定年間発生数は、100〜120例ほどとされています(脳腫瘍)全国集計調査報告2014)。
髄芽腫は、一般的には頭蓋内の天幕(大脳と小脳の境の膜)下、
ほとんどが小脳の正中部(虫部)に好発し、脳脊髄液(脳内にある透明なお水)の循環路である
第四脳室内に充満するため、脳脊髄液がせき止められて溜まってしまう水頭症を併発することが多いです。
症状は、歩行時・立位のふらつきと頭痛、嘔吐が最も多く、
その進行は週単位の比較的ゆっくりのものから日単位の急なものまでまちまちです。
症状の立位・歩行時のふらつきは小脳の機能障害であり、緩徐に進行することが多いです。
頭痛・嘔吐は水頭症による頭蓋内圧亢進症状(頭の中の圧が高くなることで起こる症状)ですが、
時に急速に悪化し全身倦怠感(だるい感じ)、傾眠(浅く眠っている状態)に移行する
経過では緊急入院を必要とする場合があり、時によってはそのまま緊急手術になることもあります。
1) 小脳機能障害
2) 閉塞性水頭症による症状
実際は頭部CTや頭部MRIを施行しなければ判明しないので、上記の様な症状が治らず、継続する場合は神経放射線学的検査(CT、MRI)を施行することをおすすめします。
診断には神経放射線学的検査(頭部CT、MRI)が必須ですが、確定診断は腫瘍組織標本を得なければ他の小児に好発する後頭蓋窩腫瘍
(星細胞腫、上衣腫など)と鑑別できません。
診断を確定することで治療を選択することが可能となります。
1) 神経放射線学的診断
@典型的なCT所見
A典型的なMRI所見
2) WHO2016の分類:摘出した腫瘍組織からの診断(参考文献:1)
@病理組織学的診断
A分子/遺伝子 4型分類(参考文献:2)
i. | Classic type | :高リスクだが詳細不明 |
ii. | LC/A | :高リスク、7〜17歳に多い |
iii. | DN | :稀少で病態との関連不明 |
i. | Classic type | :標準リスク |
ii. | LC/A | :病態との関連不明 |
iii. | DN | :乳幼児と成人に発症、乳幼児は低リスク |
iv. | EN | :乳幼児は低リスク |
i. | Classic type | :標準リスク |
ii. | LC/A | :20%ほど、高リスク |
i. | Classic type | :85%ほど、,標準リスク |
ii. | LC/A | :病態との関連不明 |
Bいずれにも当てはまらないものをMedulloblastoma,NOSとしている
3) 播種による診断/分類(Changの分類):画像所見や髄液検査からの診断(参考文献:3)
M0:播種がない:脳脊髄液に乗って腫瘍細胞が散在していない
M1:脳髄液細胞診で播種がある
M2:頭蓋内に播種がある
M3:脊髄に播種がある
【参考文献】
髄芽腫は悪性腫瘍ですが、30年前に比して治療成績は向上しており、
治癒も見込める可能性が高いのが現状です。
髄芽腫の病態は局所での増大、水頭症の進行と、腫瘍細胞が脳脊髄液に乗って
脳の離れた場所や脊髄に付着し増殖する播種とがあり、存在する腫瘍細胞全て摘出することは困難と思われます。
治療の目的は、まずは摘出・診断を行うこと、水頭症を緩和すること、
そして治療の効果を維持(局所増殖・播種を抑制)することにあります。
実際には、外科的治療で診断・摘出、水頭症を緩和し、化学療法および放射線治療で
局所増殖{後頭蓋窩(天幕下領域)照射}および全脳全脊髄での播種(全脳全脊髄照射)を抑制します。
摘出術後は、時に一過性の小脳性無言(言葉が話せない状態)を認めることもあり、
患児が病気に対する不安以外に、言いたいことが言えないというストレスを抱えてしまうため
周囲による十分な配慮が必要となります。
このため治療を行う施設は、治療経験のある脳神経外科、血液腫瘍内科、放射線科が揃っていることが望ましく、
腫瘍を摘出した後に病理組織診断・腫瘍遺伝子診断、神経放射線学的診断などの情報をもとに
集学的治療計画(外科的治療、化学療法、放射線治療を組み合わせて治療すること)を立て、チームで治療に当たることが多いです。
治療後は、各科の外来で連携して定期的に治療効果の評価、 及び治療における晩期合併症(病気に対する治療が終了し数カ月、あるいは数年が経過してから生じる健康上の問題) の評価を継続し,必要であれば支援を検討します。
【治療法】
まずは、手術による摘出術で脳神経外科医が担当します。
摘出した腫瘍組織から、病理組織学的診断,遺伝子診断を行います。
その後は、小児(血液腫瘍内)科による化学療法、放射線(治療)科により
放射線治療を行うことが一般的であり、全てが計画的に進む施設での治療が望ましいです。
これまで標準リスク群、高リスク群に分類して、それぞれに適した治療を行うことで治療成績は向上し、
長期生存者が増加していますが、晩期合併症も重要な課題となっています。
このため治療が強くなりすぎないように先に述べた病理組織学的分類、
新しい遺伝子学的特徴を解析し腫瘍のプロファイルとして分類を設定して治療レジメを調整する試みも行われています。
しかしまだまだ現在までに判明したデータでも予測し切れないのが現状です。
【予後】
現在の世界的な標準治療の成績として挙げられるのが、
標準リスク群(播種がない、手術でほとんど摘出できている、3歳以上の症例)に対する
化学療法及び放射線局所照射+全脳全脊髄照射を後療法として行った海外の発表があり(参考文献:1)、
5年生存率86%、無再発5年生存率81%という結果ですが、我が国の治療もこの値と遜色なくなってきています。
しかし実際は高リスクの症例も存在し、晩期合併症に対する配慮をしつつ治療強度を強めた治療を行っています。
【晩期合併症】
近年、特に標準リスク群の症例の治療成績が向上し、長期生存者が増加しています。
これまでは生存率の向上を念頭に治療法を模索してきましたが、
これからは生存者の生活の質が向上する治療法を追求する時代へと移行しています。
放射線治療の線量を減らし、化学療法のレジメを変更したり、
陽子線治療を活用したりと様々な施行錯誤がなされているのが現状ですが、
治療終了後も一定の定期的な機能評価が必要なのは言うまでもありません。
【陽子線治療】
陽子線治療は新しい放射線治療で、その利点は、
エネルギーを腫瘍の位置かつ腫瘍の形状に合わせて止めることによって、
病巣に集中照射しつつ、正常組織への線量を低減させることが可能なことです。
この特徴から小児固形がん治療において晩期合併症を軽減させる事が期待され、
我が国では2015年4月に保険収載されました。日本脳腫瘍学会における脳腫瘍診療ガイドラインでは髄芽腫に対して「放射線治療として陽子線治療を行うことを条件付きで提案する(推奨度2D)」としています。
現時点での髄芽腫に対する陽子線治療の効果は、従来の放射線治療と同等とされますが、我が国における晩期合併症に関しては現在、追跡・評価中です。
【参考文献】
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