脊髄は脳と身体各部をつなぐ神経の束で、脊椎(背ぼね)の中を通っています。
脊髄に生じた先天異常を二分脊椎といいます。
二分脊椎は病状や治療方針の違いから、大きく二つのグループに分けられます。
1)開放性二分脊椎(図A)
背部皮膚が欠損し、脊髄が体外へ露出するタイプです。脊髄髄膜瘤、
脊髄披裂とも呼ばれます。
下肢の運動感覚障害、排尿排便障害がみられます。多くは水頭症とキアリ奇形を合併します。
生後数日以内に露出部分の修復手術が必要です。
2)閉鎖性二分脊椎(図B)
脊髄異常が皮膚で覆われ、外からが見えないタイプです。潜在性二分脊椎とも呼ばれます。
病変のタイプにより細分類され、脊髄脂肪腫、肥厚終糸(緊縛終糸)、
先天性皮膚洞、係留索状物(Limited dorsal myeloschisis)、
脊髄嚢瘤、分離脊髄奇形(割髄症、重複脊髄)などが含まれます【各病変については本章6.各論参照】。
下肢運動感覚障害、排尿排便障害の原因となりますが、一般に開放性より軽度で無症状例も多くみられます。
特徴的な背部の皮膚異常がしばしば診断の契機になります。
小児の脊椎の一部は軟骨であることから、
正常でもレントゲンで二分して見えます。
異常所見と区別が必要です(参考文献:1)。
各種二分脊椎は、妊娠3カ月までの脊髄発生段階において、それぞれの異常が原因で生じます。
開放性二分脊椎の発生頻度には人種差があります。本邦では元々少なく1999〜2001年の調査で0.7〜1.3人/1万出生でしたが、
その後増加し2012では5〜6人/1万出生となりました(参考文献:2)。
欧米では1970年代後半5〜15人/1万出生と多かったものの、
1990年代後半には2〜4人/1万出生へ減少しました。
欧米で葉酸摂取について啓蒙が進んだためとされています(参考文献:3)。
発症リスク軽減について、対象は開放性の神経管閉鎖不全症(開放性二分脊椎と無脳症)に限られますが、
厚生労働省は「妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで、食品からの葉酸摂取に加え、
いわゆる栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取すれば、
発症リスクが集団としてみた場合に低減することが期待できる」とし、
妊娠を計画する女性に対し、本人の判断に基づいた適切な選択ができるよう、
保健医療関係者が情報提供を行うよう通達しています(参考文献:3)。
閉鎖性二分脊椎では、代表疾患である脊髄脂肪腫の発生頻度が1人/4000出生といわれています。
閉鎖性二分脊椎全体ではこれより多いことになりますが、
閉鎖性であるがゆえ正確にはわかっていません。
葉酸による発生予防効果は不明で、少なくとも脊髄脂肪腫への予防効果は認められないという
報告があります(参考文献:4)。
【参考文献】
1)神経機能の障害
開放性二分脊椎と閉鎖性二分脊椎ともに生じます。
下肢の運動麻痺や変形・左右差、感覚異常、排尿障害(繰り返す膀胱炎、頻尿)、
便秘などが生じます。
二分脊椎部分より尾側の身体に生じ、二分脊椎の位置が頭側であるほど症状の範囲が広く、
重度になります。
開放性では、大部分の児に何らかの神経機能障害が認められます。
閉鎖性は一般に症状が軽く、無症状例も多く、歩行困難や自己導尿が必要な例は限られます。
2)合併病変
@水頭症
開放性二分脊椎の80〜90%に合併します、閉鎖性二分脊椎には合併しません。
頭蓋内で脳脊髄液が過剰となり、脳の発育障害や損傷が生じます。
早期手術が必要です。
Aキアリ奇形
開放性二分脊椎の80〜90%に合併します。閉鎖性二分脊椎には基本的に合併しません。
小脳が脊髄側へ落ち込み、脳幹と脊髄を圧迫します。
程度が強いと乳児期には哺乳障害、呼吸障害が問題になります。しかし、
症状を出すほど強いキアリ奇形は10〜20%に限られます。
治療を要するのは症状が出現した児だけです。
無症状の場合は経過観察でかまいません。
B脊髄空洞
開放性二分脊椎と閉鎖性二分脊椎のどちらにも合併する可能性があります。
脊髄の中心部に脳脊髄液が溜まり、空洞化します。
歩行障害や脊柱側弯を引き起こします。症状がある場合、大きい場合、
進行性の場合は手術が行われます。
3)背部の皮膚異常
閉鎖性二分脊椎は皮膚で覆われていますが、
中に病気が隠れていることを暗示する皮膚所見がよく見られます。
背中からお尻にかけての図Aのような所見です。これらを認める場合、
MRI検査による確認が勧められます。
図Bのように、お尻の割れ目に隠れる場所、尾骨部分の陥凹の場合は、
脊髄奇形はかなり少ないことがわかっています。この場合、
MRI検査は必ずしも必要ないという意見があります【医療者向け参考文献:1】。
4)併存する疾患
閉鎖性二分脊椎は直腸肛門奇形(鎖肛など)、泌尿生殖器奇形(尿道下裂など)
と併存することがあります。
キアリ奇形のうち二分脊椎に合併するものがU型と呼ばれます。
キアリU型奇形と水頭症は、胎児期の髄液漏が原因で起こりますので(Unified theory;McLone,1989)(参考文献:2)、
基本的に開放性にのみ合併します。
二分脊椎に合併する水頭症は、髄液循環障害(閉塞性水頭症)と髄液吸収障害(交通性水頭症)
両方の要素を持ちます。
第三脳室底開窓術では治療効果が不十分で、VPシャント術を必要とすることが多い理由です。
発生過程で、二次神経管は排泄腔(cloaca)と近接、関連しています。
このため、二次神経管由来の閉鎖性二分脊椎(脊髄円錐部〜終糸の病変)に合併します(参考文献:3)。
【参考文献】
開放性二分脊椎は胎児期に診断される場合と、出生時に診断される場合があります。
出生後、診察とMRI検査により脊髄奇形、水頭症、キアリ奇形、
脊髄空洞の詳細を評価し、最終的な治療方針を決定します。
閉鎖性二分脊椎は、胎児期に診断されることはまれです。
出生後に背部皮膚異常、下肢症状や排尿症状、あるいは直腸肛門奇形や泌尿生殖器奇形
を理由にMRI検査で診断されます。
MRI検査は小児に行う場合、動かないようにするため鎮静処置が必要です。
方法には内服と座薬、静脈投与があります。MRI検査の必要度、鎮静薬の影響、
外来で行える検査範囲なのか、検査入院が必要なのかの判断は状況により異なります。
担当医から説明をもらいましょう。
開放性二分脊椎の胎児診断は、多くは超音波検査で水頭症に気付かれることがきっかけとなります。
胎児MRIを追加することで予後に関するできるだけ詳しい情報を、
二分脊椎の高位、脊椎後弯や四肢変形の程度、水頭症やキアリU型の程度から得て、
親に情報提供を行うとともに、治療スケジュールを立てます、
出生後は、麻痺の程度(下肢運動、肢位、変形)、
膀胱直腸機能(排尿・排便状況、残尿や水腎症の程度、肛門括約筋の緊張)、
大泉門、頭囲、呼吸、嚥下障害を評価し、治療内容・時期,予後を予測します。
閉鎖性二分脊椎は神経学的に無症候に見えても、神経因性膀胱が不顕性に存在する場合があります。
泌尿器科による詳細評価が欠かせません。
閉鎖性二分脊椎のMRI撮影においては、以下の点に配慮が必要です。
@ | 皮膚奇形と脊髄奇形は同じ外胚葉由来ですが、解剖学的に必ずしも連続していません。 そのため、皮膚病変周囲のみ評価し、硬膜内へ連続していないから問題ないと判断するのではなく、 脊髄も広く含めて撮影し評価する必要があります。 |
A | 生後2か月までは生理的に低位脊髄円錐を呈することがあります。 |
B | 生後3か月までは皮下脂肪が増大しやすい時期で、 異所性脂肪組織である脊髄脂肪腫も増大する可能性があります。 |
開放性二分脊椎では、胎児診断がなされた場合帝王切開で出生します。
出生後数日以内に、基本的に全症例に対し露出部分の修復術(脊髄髄膜瘤修復術)が必要です。
目的は感染予防、脊髄損傷予防、および係留解除です。
係留とは脊髄に対する牽引負荷のことで、これを手術で取り除きます。
水頭症を合併している場合は髄液リザーバ設置術も行い、
水頭症を管理します。
その後、髄液感染がないことを確認の上、脳室-腹腔シャント設置術(VPシャント設置術)
を行います【水頭症の項参照】。
脊髄露出部の手術と同時にVPシャント設置術を行う方法もあります。
キアリ奇形が症状を出したときは、早期に後頭蓋窩減圧術を行います。
※ ラテックス・アレルギー:
特に開放性二分脊椎では、手術、導尿、浣腸の機会が多く、
ラテックス(天然ゴム)が含まれている器具を使用することで、
ラテックスに対するT型過敏反応(アナフィラキシー)が発生しやすいとされます。
病院ではラテックス・フリーが進んでいます。日常から、
ゴム風船などゴム製品は避けるよう心がけましょう。
閉鎖性二分脊椎の手術目的は、係留解除と、圧迫された神経の除圧、
感染予防(先天性皮膚洞の場合)です。
症状がある場合、特に進行する場合は早期手術が勧められます。
無症状の場合や症状が安定している場合は、予防的手術と手術せずに経過観察する治療選択肢があります。
それぞれに利点と欠点があります。児ごとに主治医とよく話し合いましょう。
予防手術の理由として、症状進行の可能性があること(年長児ほど有症状率が高い)、
一度出現した症状が手術によって改善するとは限らないこと、
長期観察中に緩徐に進行する症状を的確に把握することが容易でないことが挙げられます。
症状改善の可能性を期待することもあります(参考文献:1)。
【参考文献】
開放性二分脊椎では、成長による身体変化にともなって、
脊髄の再係留や脊髄空洞が出現する可能性があります。
VPシャントの流量調整や、シャントチューブの延長術が必要なこともあります。
排尿管理、装具・車いすの調整、褥瘡にも考慮が必要です。
個々の例にもよりますが、複数の診療科でフォローアップが必要です。
小児期は、多くは数ヶ月毎の診察が必要です。成人期も頻度は減りますが必要です。
開放性二分脊椎では歩行可能例が60〜70%(装具使用を含む)とされ、
導尿は約80%に必要、比較的重い知的発達障害は10〜15%とされます。
社会的自立症例と日常生活までの自立症例を合わせると6割、
軽介助の必要な例が3割、約1割は介助量が大きいと言われています【医療者向け参考文献:1】。
閉鎖性二分脊椎では、車いすや自己導尿が必要な例は限られます。
基本的に知的問題はありません。
成長に伴い脊髄再係留、脊髄空洞出現の可能性があるため、成長終了までは定期診察が勧められます。
開放性、閉鎖性二分脊椎とも、個々の状態によりますが、小児科をはじめ、
脳神経外科、泌尿器科、リハビリ科、整形外科、小児外科による包括的診療が必要です。
【参考文献】
1)分離脊髄奇形(Split cord malformation)
脊索形成時の障害によります。他の二分脊椎にしばしば合併します。
2つの脊髄がそれぞれ硬膜嚢を持ち、骨性または線維軟骨性中隔が存在するType T
(割髄症、diastematomyelia)(図A)と、1つの硬膜嚢内に線維性中隔で境された2つの
脊髄が存在するType U(重複脊髄,diplomyelia)(図B)があります。
神経症状は、係留と神経組織形成不全によります。症候性例は手術適応、
無症候性例の予防手術には議論があります。
手術では,中隔切除による係留解除を行います(参考文献:1)。
2)先天性皮膚洞(Congenital dermal sinus)
一次神経管閉鎖時に皮膚外胚葉と神経板の分離不全(incomplete disjunction)が起きて生じます。
上皮を持つ管腔状の索状物(図、矢印)で、背部の皮膚陥凹から連続し、
硬膜外まで(10-20%)、硬膜内まで(60%)、脊髄まで達します(7%)。
硬膜内に達するうちの60%に髄膜炎や硬膜下膿瘍を生じます。
50-60%に類皮腫を伴います。
症状は感染と係留、圧迫(類皮腫、膿瘍が原因)、
神経組織形成不全によります。早期予防手術で全摘出します(参考文献:1)。
3)Limited dorsal myeloschisis(LDM)
一次神経管閉鎖時の分離不全(incomplete disjunction)によります。
上皮を含まないfibroneural tractが、特徴的な瘢痕様皮膚(cigarette burning)
から脊髄背面へ連続します(図、矢印)。
Dorsal tethering bandやmeningocele manqueの概念と重なります。
頚胸椎のnon-terminal myelocystoceleは,saccular typeのLDMと考えられます。
神経症状は係留、神経組織形成不全が原因と考えられます。
手術は全摘出による係留解除術で、予防的手術も行われます(参考文献:1)。
4)脊髄脂肪腫(Spinal lipoma)
神経管閉鎖時に中胚葉組織が迷入して生じた奇形(異所性脂肪組織)です。
増殖はしないが、肥満やるいそうによって皮下脂肪と同じく増減します。
MRI所見に基づくAraiらの分類で5型に分けられます。@dorsal type、
Atransitional type、Blipomyelomeningocele、Ccaudal type、Dfilar type(図の@〜D)(参考文献:2)。
発生上、@は一次神経管に由来、CとDは二次神経管、AとBは両方の障害に由来する(参考文献:3)。
@〜Cは円錐部脂肪腫と呼ばれ、係留、圧迫、神経組織形成不全により
神経症状を生じる可能性があり、多くは手術が考慮されます。
Dの終糸脂肪腫は、任意に撮影したMRI上0.24〜4%に認められ、
大半は無症候性で低位脊髄円錐を呈さず、病的意義はありません(図Dは低位脊髄円錐を認める症例)。
5)肥厚終糸(Thickened filum)
二次神経管形成異常によります。
径2mm以上の終糸を指し、線維成分が主体で脂肪組織を伴うこともあります。
緊縛終糸(tight filum terminale)とも呼ばれます。
低位脊髄円錐を認める場合、係留負荷による神経障害が危惧されます。
この場合、症候性は手術が勧められ、無症候でも手術合併症が少ないことから予防手術が選択肢となります。
低位脊髄円錐を示さない無症候例は手術適応がありません(病的意義がない)。
低位脊髄円錐がなくても神経症状の出現する例がまれにあり、手術が選択肢となります。
脊髄空洞が存在する場合も手術が検討されます(参考文献:1)。
6)終末部脊髄嚢瘤(Terminal myelocystocele)
発生段階で二次神経管のterminal balloonが正常に退縮せず発生します。
脊髄下端の中心管が拡張し、脊髄はラッパ状に広がって皮下へ連続します
(図中、矢印は中心管と連続する腔を、*はくも膜下腔を指す)。
神経症状は係留と神経組織形成不全によります。症状の有無にかかわらず、
係留解除と修復手術が勧められます。
総排泄腔外反,仙骨奇形などを合併することがあります(参考文献:1)。
7)Retained medullary cord
二次神経管の尾側が終糸へと退縮せず、脊髄様の形態で残存したものです。
係留解除術を行いますが、電気生理学的に真の脊髄下端と真の最下位神経根を確認し、
その尾側で切断します(参考文献:1)。
【参考文献】
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